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Column05

【夢のカタリバ】

  • クミ    28歳 NPOカタリバ代表
  • リョウ   25歳 会社員
  • ヤチュー  22歳 大学生
  • よりこ   23歳 会社員
  • わけちゃん 25歳 会社員
  • はっせ   23歳 会社員
  • ヨウコ   24歳 会社員
  • ケン    23歳 専門学校生
  • ダイキ   27歳 会社員

 

いま中野に9人で住んでます。

大学の後輩で、 いま大学4年生の後輩と飲んでいたときのこと。
「そういえば、僕もシェア始めたんですよ。
 いま中野に9人で住んでます。」

9人? 野球チームが作れるじゃないか。

シェアをする人数で多いのは、2人〜4人。
5人以上でシェアをする例はあまりない。
果たして、9人で住む生活はどんなものなのだろうか。

 

ナナメの関係という言葉。

自分の話だが、1年前にこんなことがあった。
ある、以前からの知人の男性に会った際に、こんなことを言われた。

「うちの息子が、おかげさまで大学に合格しました。
あなたたちのおかげです。どうもありがとうございました。」

はて、

思い返しても、 こちらは何もしていない。

彼の息子は、大学受験に3回連続で落ちた。
医学部を目指しているのだが、なかなか合格せず、
3回目の受験に失敗した直後に、彼の父は、気晴らしにと、
息子に 数日ほど東京に行ってきなさいと言ったのだった。

ちょうどそのときに、彼がステイしていた友人宅でパーティが開かれることになっていた。
いつもの仲間での、お互いの近況や、
新しくやってみたいビジネスやプロジェクトの話をしていた。
そこに、その3浪中の彼は、ただ普通に僕らと酒を飲みながら、話をしていた。
ただ、それだけだった。

彼の父は僕に、こう言った。

「息子が言ったんです。あのとき、東京でみなさんと会って、
今まで会ったことの無いような人たちが、聞いたことが無いような話をしていた。
まるで外国にいた気分だった、それでやる気になった、と。本当に感謝しています。」

東京から帰ってきた息子を、飛行場で迎えた父は、
息子の顔が希望に満ち溢れているのに出会ったそうだ。

僕らと、3浪して医学部に入った彼との関係を、"ナナメの関係" と呼ぶ。
親と子を 上下関係、友達を横の関係、とすると、
僕らは"ナナメの関係"というわけだ。
彼にとって僕らは、
親や友達には話しにくいことを話せる相手であり、
将来への方向性についてなんらかの影響を与える存在だったわけだ。

僕が最初に"ナナメの関係"という言葉に出会ったのは、
1年半前の1つの出会いがきっかけだった。

 

世界のすべての人を"ナナメの関係"に。 NPOカタリバ

1年半前に、ある交流会で NPOカタリバの代表 今村久美さんにお会いした。
NPOカタリバの活動は
大学生・社会人が 高校の授業に出席して、
語り合う場を提供すること。

(NPOカタリバのホームページはこちら。)
http://www.katariba.net/

高校生にとっての"ナナメの関係" を作ろう!という活動だ。
週に2,3回 高校に訪問する活動を続けている。
東京都からの依頼を受けることもある。

Castといわれる 高校に訪問しようとしている大学生・社会人の登録数は、3,000人を超える。
代表の今村久美さんとお話をした際の言葉。

「高校生にとっていい関係をつくりたい、という思いをもって、
 どんな場にするか、 その場の目標は何か、 何を伝えるかを、
 大学生は真剣に準備するんです。
 実は、高校生以上に成長するのは、大学生なんですよ。」

非常に共感した。

僕に「9人でシェアを始めました」 と教えてくれた後輩ヤチューも、
カタリバに参加しているメンバーだ。
そして その9人の仲間は、NPOカタリバのメンバーを中心に構成され、
代表の今村久美さんも参加しているという。

 

9人の生活は、1組の夫婦生活と、3人の快適な生活と、1部屋に4人の生活。

JR中野駅から徒歩12,3分ほどのところにある 6LDKの一軒家。

この家のリョウとクミは 2006年12月に結婚。
リョウも カタリバの中心メンバーだった。
結婚してしばらくして、 この家を購入した。
「築年数は古い分、 ほとんど土地代だけでした。」

2人夫婦で、この家は大きすぎる。

「購入するときは、やはりカタリバのみんなのことを考えました。
 前に住んでいたときも、ほとんどみんな泊まりこみで
 学校企画の打ち合わせをしていたので、大きい分にはかまわないと思って。
 でも、まさか9人で住むとは思っていなかったです笑。
 こんなところには誰も住みたいとは思わないだろう、と思っていましたし。」

NPO代表のクミには、
「今村家 不動産事業部 営業部長」という肩書きも持つ。
みんなの家賃管理など、寮母さんのような仕事をしている。

6LDKの内訳は、こうなっている。
2階の一番奥の部屋には夫婦の寝室があり、
ほかに3部屋の個室と、1つの共有の作業スペースがある。
1階には 玄関のすぐとなりにリビングとキッチン、、、
そしてもう1つの部屋に4人が住んでいる。

1つの部屋に4人。。。

その部屋には二段ベッドが2つならび、
 それぞれの私物はベッドの隅に転がっている。
プライベートも何も あったものではない。 

4人部屋に住む、ワケちゃん と ヤチューに聞いた。
「あんまり気にはならないです。ほとんど部屋にいることは無いですし、
みんな忙しいので部屋に4人一緒に寝たことはないです」

どうしてここまで増えたのか。

「最初、この家に住んだのは、持ち主ではなく、ハセです。
 まだリフォーム前に、風呂も洗面所もない、
 電気もむき出しの状態のままでしばらく住んでました。」

「みんな、大学生のときにNPOカタリバの活動に参加してました。
 卒業して会社に入るときには、もうあんまり会うことはない、、
 と思っていたらほぼ毎日一緒にいて笑
 この家によく出入りしているうちに、まず歯ブラシが増えて、
 着替えを持ってくるようになって、
 次の日のスーツを置いておくようになって、、気づいたら住むことになっていました笑」

たしかにこの家には、
必要最低限の家具しか、みんな持ってきていない。

「いらない家具は、実家においてあります。」

もしかしたら、本当に必要なものは、実はあまりないのだと思う。
「私有物」という考え方自体、もしかしたらおかしなことなのかもしれない。
少なくとも、彼らにとって、大事なのはモノではない。

 

細かいことを気にしないのが住む条件

この家に住むためには、
今村家 不動産事業部 営業部長であるクミと 面接をしなければならない。

そこでの条件は一つ。
「細かいことは気にしない」、 ということだ。

確かにこの家に住むには、
細かいをことを気にする人はやっていけないのかもしれない。

夫婦の寝室がどんな部屋なのかをクミに聞いたところ、

「スリープインクローゼット と呼んでいます。
 つまり、洋服もモノも、部屋のどこにおいてもいいし、どこに寝てもいい。 
 クローゼットの中に寝ているような感覚です笑。」

なるほど。細かいことは気にしない。

4人部屋ももちろんそうだ。

ワケちゃんは、いつも作業部屋に布団を持ち込んで寝ている、という。
細かいことは気にしない。

掃除、洗濯、ゴミはどうしているのか。

「週に2回、お手伝いさんが来てくれて、掃除と洗濯をお願いしています。
 洗濯機のとなりに9人分のそれぞれの棚があって、
そこに入れておくと洗濯をしてくれる仕組みです。」

「ゴミは、9人で当番制にしています。
 でも、その人が捨てるための当番じゃなくて、
 その当番がみんなに指示をして捨ててもいいことになってます。」

この家のヨウコは、
みんなの気づかぬ間に洗いものや洗濯をしてくれていて、影の大黒柱である。
細かいことを気にしない住人が、
ほんとうに何も気にしなくなるとどうなるかは
おそらく想像できるだろう。

「前日の夜に みんなが食べたものや飲んだものは、
 翌日の朝になっても 放置されていることが多いんです。
 でも、気づくと片付けられている。ヨウコちゃんのおかげなんです。」

ヨウコに その状況について聞いてみると、
「まあ、あんまり気にしてないです。たまにイラっとすることはあるけど(笑)。」

ご飯についても、
みんな生活がバラバラのため、晩御飯を一緒に食べることは少ないとのことだが、
朝ご飯はだいたい白いご飯が炊かれている。
ヨウコが用意してくれることが多いのだそうだ。

ちなみに、食材はどうしているかというと、
ほとんどかかっていない、という。

「みんな実家から色々送ってもらっているので、食材にはあまりお金がかかりません。
 米はすべて新潟の実家から送ってもらっているし。果物とか野菜もそうです。」

「コツは、親を家に連れてくることですね。
 すると親は かわいそうだと思うのか、送ってくれるようになります笑」

この家、一番のこだわりは風呂だ。
9人で1つの風呂を使うだけあって、なかなか時間が合わず、
近くの銭湯に行くことも多いというが。

クミの意向で最初に住み始めるときにリフォームをした。
広く、キレイで、テレビつき。

クミは午前中みんなが会社に行っていなくなってから 
1時間以上風呂に入るのが日課だ。

「シャンプーやリンスなどについては、1種類しかありません。
 細かいことは気にしない人ばかりなので、
 その中でも一番気にする人が決めたものを、みんな使ってます。」

キレイな風呂でも、 細かいことは気にしない。

 

9人の生活、それ自体がカタリバ

彼らは、NPOカタリバという共通点がある。

ケンだけは クミさんの実家の幼馴染で、
アメリカから日本にいる間に 3,4ヶ月間だけこの9人住まいをしているから、
実際はNPOカタリバの活動には参加していないのだが、

「思ったよりも、気を使わないです。もっとグチャグチャな生活かと思ったけど。
 僕が平日一番早く帰ってくるんで、自由に使えるし。
 深夜になったらなったで、みんな帰ってきて、色々な話をするし。」

たしかに まだこの家に入って1週間というのは信じられないくらい、
同居人のみんなと馴染んでいる。

平日の夜、 一番最後に帰ってくるのは ヨリコだ。
仕事の都合で、 帰ってくるのは毎日午前1時近い。

「帰ってきても誰かがいるのが嬉しいです。
 一人で生活するより ぜんぜん楽しいです。」

この家自体が カタリバになっている。
夢のカタリバ、 日常のカタリバ。
もちろんNPOカタリバの企画のための話し合いは
毎晩のように行われる。

大学生が家に訪れ、 泊まりこみで企画の案を練る。
その議論に住人は参加をする。  

この家の住人は、カタリバを通じて出会い、
カタリバを通じて成長し、社会に出て行った。
だからこそ彼らが大学生と向き合う目も、真剣だ。
そこには信念がある。自分への自信を感じる。見ていてとても心地がよい。

また、その日の取材の日に、高校生が1人来ていた。
レノンという、高校2年生。
彼は、自分の思いを住人に素直にぶつける。
高校に行きたくない理由。
他のことが好きな理由。
様々なこと。

住人たちは、それを茶化すことはない。真剣に向き合う。
それぞれの方法で。それぞれの態度で。
クミが、最後に一言いった。

「絶対、大学に行かなきゃダメよ。」

相手のことを思って、なんでも受け入れようとする姿勢。
相手のことを思って、きちんと道を言い切る強さ。
日常のカタリバには その両者が共存する。
どちらかしか持ち合わせない人が多い中、きちんと両者を持ち続ける難しさ。

この家は 自分たちのためのカタリバでもあるのだ。
彼らはこの家に一緒に住み続ける限り、成長し続ける。

高校生と向き合い続けてきた大学生活を終えた彼らは、
クミが1年半前に言っていたように、

「自分たちが一番成長した」 

という自信を感じる。

細かいことを気にしない生活。
大事なことが何なのか、みんなきちんと分かっている生活。

9人の生活ができるのも納得した。

 

カタリバ、その後。

「子どもができたら、一緒に育てて欲しいとおもいます。
 だから、やっぱり誰かと一緒に住んでいたい。
 でも、誰もすみたがらないんじゃないかな。」

リョウとクミは、そのように言った。

ナナメの関係の大事さを身にしみて感じている彼らにとって、
自分の子どもにもナナメの関係である人が
そばにいるのはありがたいことだろう。

みんなに、
この家にいつまで住み続けるつもりなのか聞いてみた。

ダイキは、すでに出て行く展望がある。
この家から出たいからではない。
いま目指していることがうまくいったら、
次の生活に向けて、家を出ることに決めている。

ヤチューは、あと2ヶ月したら社会人。
それまでは、東京なのか大阪なのかもわからない。
もし東京でないなら、出て行かなくてはならない。

ヨウコは、
この家の生活がとても楽しい一方で、
「一人暮らしも、一度は経験してみたい。」
「もしくは、他の人ともシェアしてみたい。」 と言う。

ケンは、あと3ヶ月したらまたアメリカに戻ることが決まっている。

そのほかのメンバーは、
いつまでこの生活をつづけるかはわからない。
でも、なんらかのタイミングで出たり入ったりすることは感じている。

彼らは、自分の行く道がわかっている。

いや 道はなくとも、仲間と共有する指針がある。
たとえ その針が別の方向を向いていても、
その針の延長線上では 必ず交わっていることを知っている。

地球上にいる限り。
地球が二次元ではなく、三次元である限り。
カタリバ、その後。

彼らは 大事なことが何なのかを知っている。